政府筋が昨日明らかにした今回のクーデター未遂事件の全貌とは、野党内部には『穏健派』と『強硬派』があって、『強硬派』の計画では、マラカニヤン宮殿における混乱に乗じてアロヨ大統領を暗殺。同時に退役軍人記念病院から奪取したエストラダ元大統領を暗殺。ビリヤモール空軍基地では管制塔を占拠。エンリレ上院議員を新大統領に据える。という具体的なものであった。そのいずれも反乱軍内部の情報の混乱から行使に及ばなかった。その謀略の存在を裏付ける膨大な証拠と証人を有するとのこと。またミリアムサンチャゴが穏健派と強硬派どちらに属していたかについて言及されていない。

 エストラダの長女ジャッキーロペスは強硬派の説得に回ったとされているので、結果、未遂に終わったこの事件で、エストラダには、自分の暗殺が彼らの計画に含まれていたことは既知のことだっただろう。それが5月3日に行われたアロヨによる突然のエストラダ訪問の際の彼の従順な態度となって表れたのである。そこで、アロヨはエストラダを「President」と呼び、エストラダはアロヨを「Our President」と呼んだ。TVでも放映されたように、これが、エストラダがアロヨをはじめて「大統領」と認めた瞬間であったし、アロヨ大統領が絶対の自信をもってエストラダを(元)「大統領」と呼んだのであった。さて、反乱宣言による逮捕状なき逮捕の違憲性について既にサンチャゴ議員から、最高裁へ訴えが起されている。群衆は火器を持していなかった。よって反乱は成立しないので、反乱宣言は無効である。よって逮捕状なしの逮捕は違憲である、というのが訴の趣旨である。しかしながら、最高裁は反乱宣言を有効と認めるだろう。今回の未遂事件関係者の情況は次の通り;

■エストラダ元大統領 逮捕済 野党議員から暗殺の標的にされ、政権返り咲きを一時断念(?)
■エンリレ 上院議員 逮捕済 反逆罪容疑。容疑を否認
■マセダ元米国大使  逮捕済 反逆罪容疑から反逆共犯容疑に罪を軽減。近く保釈
■サンチャゴ上院議員 未逮捕 自首説得中
■ホナサン 上院議員 未逮捕 容疑を否認逃亡中
■ラクソン元国家警察長官 未逮捕 元長官時代に冷遇した警察幹部の報復を恐れ、逃亡中

 このように個々の取引により、それぞれに異なる処遇を与えることにより、野党勢力の分断は着々と行われているようである。とすると、エストラダにとって政権返り咲きの夢は潰え、軍資金の反乱勢力への流入は止みそうである。これで反乱勢力の組織的な再決起の可能性は薄くなったといえよう。サンチャゴ上院議員の場合、エストラダ政権下では夫が内務次官、弟が空軍長官(現職)と厚遇を受けていたので、なりふり構わず、エストラダ支持の立場、つまり自己の利益保護、を貫いたのだろう。

 はじめからエストラダ暗殺が野党のシナリオにあることを知っていたなら、巨万の群集は、果たしてマラカニヤン宮殿に殺到しただろうか。死を賭して、棒切れと投石のみで武装警察軍に立ち向かっただろうか。まず投石すべきは、エストラダを支持するふりをしていた野党再選候補議員ではなかったか。彼らには、来る選挙で投票すべき候補者はいなくなった。絶対権力を手中にしたアロヨ大統領が、貧困層の声を汲み上げる努力をしなければ、デモ参加者の死は無駄になる。