5月24日の石油元売各社の石油製品の一斉値上げは、アロヨ政権の先行きに不安を投げかけた。ペトロンによれば、値上げの理由は3、4月のペソ下落と中東原油価格高騰により生じた損失の穴埋めをするためとのことである。この決定に対して、アロヨ政権は、業者に対し、値上げを見送るよう嘆願はしないと、早々と声明を出している。ジプニーなどの運輸組合や左派団体は、そんな大統領に容赦ない非難を浴びせ、石油元売本社前で値上げ抗議集会を行い、ストライキ決行の構えである。もちろん、石油製品の値上げが物価上昇の引き金となるからであるが、怒りの原因は、石油製品が自由価格制であるに対し、運賃は許可制であるために、極貧のドライバーらが値上げの差額を一方的に負担せざるを得ないというその不公平な仕組みにある。

 一方で、アロヨ大統領は、週明けから4日間の日程で、上院と下院に対し、特別国会を召集し、電力事業改革法案を審議することになった。この審議終了予定日が下議員全員と上議員半数の任期満了日という異例の特別国会で、アロヨ政権は法案成立を目指す。電力公社民営化を含む電力事業改革法案はラモス政権から3政権に跨る勘案事項で、アロヨ大統領は自らTVコマーシャルにも出演して、電気料金値下げにつながる同法案成立に国民の理解を求めている。しかし、左派団体は67億ドル(約8040億円)の累積債務を抱える電力公社を資産額45億ドル(約5400億円)で売却した場合、そのツケを国民が負うことになるとして大反対している。法案成立を推進してきた下院議員でさえ、公社の資産内容の調査が十分でなく、次期国会への持ち越しが望ましいと漏らす始末である。確かに毎年320億ペソ(約800億円)の赤字を計上する電力公社を手放すことは財政赤字に苦しむ政府としては当然の措置である。アロヨ大統領の目論みは、現状の賛成議員の数に加えて落選し任期が終了が確定的な議員のとりこみは容易で、4日間の審議日程での法案成立は間違いなしという大きなチャンスであること。ここでアジア開発銀行や世銀が催促する同法案を成立させて、国際評価を引き出し、政権基盤安定への浮力を得たいからである。

 いかにもサラブレッド政治家、経済通のアロヨ大統領らしい発想である。しかし、アロヨ政権は正規の手続きを経て誕生した政権ではないこと。国民世論を味方につけなければ一挙に政情が流動化する脆さを抱えていること。石油製品価格自由化はごらんの通り、価格下落に繋がっていないこと。よって、電力公社民営化による電気代の下落について、国民が深い猜疑心を持っていること。これらの事実をきちんと吟味して臨んでいるだろうか。
 アロヨ大統領は、富裕層に属するエストラダ元大統領の拘置状況に対しては同情するとしながら、貧困層に属するジプニードライバーに対する同情心は一切見せなかった。ディーゼル値上げがもたらすジプニードライバーの生活の困窮に想像が及ばなかった。そこがグロリア:マカパガル:アロヨ大統領の弱点である。大統領更迭をかざして迫る国民とそれを無責任に鼓舞する政治家どもを相手に、週明けから新米女性大統領の攻防が始まる。

同法案は、5月31日の特別国会最終日に時計を止めて保留し、今期最終通常国会の6月1日に下院を、4日に上院を通過し、8日にアロヨ大統領が署名して成立した。