英国で狂牛病(牛海綿状脳症ーBSE)が始めて報告されたのは1985年頃のことである。ヒトにもヤコブ病(CJD)という中高年に発症し狂牛病と良く似た脳疾患があった。獣医学会は狂牛病とヤコブ病との関連を疑ったが、発症共通因子は見つからなかった。そして、1996年に従来のヤコブ病とは症例が異なり若年層にも発症する新型ヤコブ病(新型CJD)が報告されたとき、獣医研究所は狂牛病がヒトに感染したのだという「確信」を持って研究し、ついに狂牛病の病原たるタンパク性感染因子プリオンを患者の脳から検出し、欧州中が大パニックになった。

 狂牛病の特徴は牛で2年間から5年、ヒトでは5年から10年といわれるその潜伏期間の長さである。それだけに、行政の良識ある対応が早期に求められるのだが、果たして、農水省はどんな措置を行ってきたのだろう。英国がEU国外へ牛肉骨紛飼料を輸出し始めたのは、狂牛病パニックによりEU国内で肉骨紛飼料が販売できなくなってからである。当然、当時の農水省は、狂牛病の感染源は唯一感染牛の肉骨紛飼料であることは知っていた。ところが、豚や鶏には感染しないとして、英国産肉骨紛飼料の危険を畜牛業者や消費者に十分告知せぬまま輸入を野放しにしていた。さらに、もともと狂牛病が同様の羊の病気スクレイピーに感染した羊の肉骨紛飼料を食べた牛へ感染・発病したとの疑いが強いことを考えれば、豚や鶏に感染しないという絶対の保証はない。狂牛病は、まだまだ発症のメカニズムなどについて未解明の病気なのだ。しかも、他国産の代替飼料をいくらでも輸入できたことを考えれば、わざわざ危険な英国産骨肉紛を選んで300トンも輸入する必要は全くなかった。むしろ、農水省は迷わず、英国産肉骨粉について輸入全面禁止の措置をとるべきであったのである。
 
 さて、狂牛病は、ヒトが狂牛病の原因タンパク質プリオンを多く含む牛の脳や脊髄、目、脾臓、副腎、リンパを食することで感染する。しかし、食肉処理・解体の仕方によっては他の部位も容易に汚染されることから、感染牛のどの部位も安全である保証はない。EU諸国で実施しているように、全ての食用牛の解体時にその脊髄を検体として取り出し、その感染の有無を検査し、陽性反応の出た牛肉は全て焼却処分するという方法こそ採用されるべきである。それでなければ既に「狂牛病汚染欧州外第一号国」として墜ちた日本の牛肉の安全性の信頼は取り戻せない。今回、千葉県で狂牛病牛が見つかったということは数年先にヒトの発病者第一号が見つかるのは必至であり、しかも問題は一体、どれだけの人間に感染しているかわからないという異常な状態にある。一刻も早く、徹底的検疫体制を確立する必要があろう。

 一方、日本の消費者や畜牛業者は英国政府および英国飼料業者に対し、自国での販売を禁止している危険な肉骨紛飼料を海外へ輸出した責を問う必要がある。エイズの血液製剤も同様、莫大な額の損害賠償を求めて闘わなくてはならない。英国発狂牛病にかかる検査や駆除費は全て英国政府により賄われてしかるべきであるのだ。日本の狂牛病感染は、日英両政府と両国飼料製造業者との癒着がなければ、100%防ぐことができた。このような死病の輸出が繰り返されないためにも、この狂牛病を含め、国際間における薬剤や食品、飼料等の製造および輸出責任、国家安全を脅かした責任に対しては、国が傾くほどの厳しい制裁金が科されるべきであろう。