私は昔から酒好きである。親父は若い頃から酒を飲まなかった。弟はビール2杯で寝てしまう。一方、私はいくらでも飲んだ。ただただ飲んだ。私の酒好きは劣性遺伝である。
 飲み過ぎて意識がなくなることはよくあったが、最近ひどくなった。皆で酒の席で飲んでいるときことは覚えているのだが、うちに帰ってからのことがまるで記憶にない。うちに帰ってから物を投げる。大声で歌をがなる。女房に当たる。
 これに、女房は14年間耐えてきた。彼女は何度も私に飲み過ぎないようにと、注意をし、頼んだが私が聞き入れることはなかった。親父は4人の子を育て、弟も4人目の子供をもうけ、円満家庭を築いた。私は子はなく、唯一の家族たる女房を冷遇している。またしても劣性遺伝である。
 昨日女房に云われたのは、
「あなた昨夜、自分が何をしようとしたか覚えている?家に食べ物がないとわかって車を運転しようとしたのよ。私がお願いします、お願いしますと何度も頭を下げて、車から降ろしてひきずって寝かしたのよ。その泥酔状態で、近所の車に次々にぶつかったらどうなると思っているの?事故で死ななくても、フィリピンの人に殴り殺されるわよ。」
 これで、すっかり眼が覚めた。家の近所はベンツにジャガー、BMW、ランドクルーザー・・・・。高級車であふれている。
テレビ・新聞に良く顔を出す著名人もいる。こんなところで飲酒運転でトラブルを起こして、新聞にでも載ったら、会社はどうなる?日比ビジネスクラブはどうなる?おい、おい、どうする。ぞーっとした。
 何よりも、考えなくてはならないのは、自分の女房のことである。自分はこのフィリピン人女房に惚れて、共に生きたいと思って、結婚したのだ。その女房はこれまで、私を守り、酒乱に我慢に我慢を重ねていたのだ。手をあげないことだけが救いだった。これで事故でも起こせばあいそもつきて、離婚の危機も迎えよう。家の家系でも彼女の家系でも崩壊家庭は例がない。離婚でもって、劣性遺伝は確定してしまう。これはまずいことだ。
 酒乱がひどくなる。要するに、体力が落ちたのだ。年を取ったのだ。これまでのようにはいかない。私はまだいろいろやり残したことがある。40代もあと9年しかなく、酒によるトラブルなどで足踏みしている間はない。
 人に迷惑をかけない。女房孝行をする。当たり前だが、これがまず大事なことだ。
 うちの女房に聞いた。
「俺は深酒さえしなければいい夫になれるかな」
 年下の異邦人女房に、またひとつ、大きな恩をいただいた。