わが家に犬がやってきた。ほぼ同時に2匹やってきた。一ヶ月前のことである。一匹は雑種の小型犬。女房の妹が持て余していたものをおっつけられた。そしてもう一匹は友人から分けていただいたラブラドール。生後一ヶ月の子犬だった。

 それから一ヶ月。私の生活パターンは変わった。
 とりわけ、帰宅時間が早くなった。私には子供がない。そこで、家に帰っても特に楽しみがなく、よって、外で友人と飲食して深夜に帰宅することが多かった。今では特に用事のない限り、早めに帰宅して、犬と遊ぶのが日課になった。

 帰宅して裏庭に回ると、彼らは好物のパンをねだって、飛びついてくる。朝、出掛けるときは2匹ととも門にすがりついて、別れを惜しんで?くれる。なるほど、聞きしに勝る「癒し系」の動物である。

 パンをやるときは、お座りをさせて、手で千切って2匹に公平に分配しようとするのだが、とにかく、座ってられない。「お座り」と怒鳴ると、その時だけは座っているのだが、私の手が動くと、もう飛びついてくる。我慢が出来ないらしい。その食欲というか、食い意地というか。人間の子供も幼い頃はそうなのだろうが、とにかく動物たるもの、体が小さいと天敵に攻撃されて命を落とす。食べないことはそのまま命に関るのだ。だから、本能の命ずるまま、とにかくよく食べる。ラブラドールはみるみる大きくなり、体重は1ヶ月で5割も増えた。

 私は彼らと接してみて、その「ひたむきさ」にいたく感動した。自分はちょっと長く生きたせいか、ひたむきさというものを忘れかけていた。仕事にも生き方にも新鮮さを失いかけていた。強欲はいけない。けれども情熱を失ったとき、青春は褪せ、老いるばかりである。サムエル・ウルマンの云うとおりである。犬族は、私に生活のリズムとひたむきさを取り戻させてくれた。彼らは私にとってなくてはならない大事な家族の一員になった。