「私たちは明日USAへ発ちます。滞在中のお力添え深謝いたします。ではご多幸をお祈り申し上げます。」

 日本大使館の広報文化班、木宮憲市所長のデンバー転勤直前の英文のテキストメッセージを訳してみるとこんなところだろう。
 
 私も18年間、歴代所長らを部外から眺めてきたが、なかでも木宮氏は傑出したリーダーだったと思う。木宮氏の業績は多々あろうけれども、私たち日本人社会にとって最も大きな功績は日本大使館と邦人団体及びNGOとの間の橋渡しとなる「月例意見交換会」を始めたことである。

 毎月一回、大小あわせて約30ほどの団体が大使館に集い、名目的には次年度の日比友好祭の準備会ではあるが、実際は大使館と邦人団体の意見交換の場になっている。少なくとも私はその認識のもとに参加させていただいている。

 ここで官と民、お互いが何を考え、何をしようとしているのかがわかるので、双方にとって利益である。これまでこのような官民合同会議は、過去には日本大使館の呼びかけで不定期、散発的に開かれていただけだから、この定期会合のもつ意義は極めて大きい。

 とかく官のなす業には「前例主義」という壁が立ちはだかりがちだが、それには常に「何年来」という枕詞が付いて回る。つまりそれをさらにさかのぼれば、前例の一つや二つは大抵存在するはずであり、それが何百年前のことであろうと躊躇に及ばず。リーダーは自己の理性に照らして正しい、必要だ、と思ったことを決断し、果敢に実行すれば良いのだ。それが「人の道」に添うものならそこには必ず偉大な先人の足跡が深く刻まれているはずだ。それこそが本当の前例主義であり、保身のために近過去の事例を踏襲するだけの「無作為」とは明確に区別されるべきものだ。

 9月18日に次の赴任地米国コロラド州へ旅立っていった木宮氏ご一家にご多幸あれ。