フィリピンの車は高いとよく言われる。果たしてそうだろうか。

 中古車屋を覗いてみると確かにタイムスリップしたような古い年式のクルマが結構な値段で売られている。近づいてボディをなでてみると表面はざらざら。どこを見ても艶などない。恐らくわずかな下ごしらえで20回は塗りなおしたのではと想像される。こんなボロ車に一体なぜこんな値段がついているのか!そしてわめくのである。

「日本ではこんなのタダだ!日本ではこんなの捨てても誰も持っていかないし、捨て賃さえ取られるンだ!」

 ちなみにこのように海外で「日本では」を連発し、よく事情を解さずにやたらその国の批判する日本人を「出羽の神(でわのかみ)」と呼ぶ。出羽の神は現地人にいたく評判が悪い。日本を知らない彼らに反論などできないから黙るしかないからだ。でも両国を知る私たちは「デワ日本へ帰ってはどうですか」と言いたくなる。

 私は断言する。

「フィリピンは最も車の安い国だ」。そして「日本は世界一、車の高い国だ」。

 私の元妻が社用の中古車を45万ペソ買った。毎日会社で使用し2年後に何と47万ペソで売った。嘘ではない。ペソ通貨の価値下落を考慮外とすれば、2年間のクルマをタダで使用し、しかも2万ペソのお釣りがきたことになる。年間使用料マイナス1万ペソだ。

 日本では新車を買って5年~7年乗ればタダ同然になるだろう。極端なハナシ250万円の新車が5年で25万円になってしまったら、毎年40万円ずつ払っていた事になる。フィリピンなら5年落ちでせいぜい3割減の175万円、毎年19万円弱だからその差は歴然としている。従って日本人は異常な減価償却率でとんでもなく高い車を買わされているのである。
 
 さらにフィリピンでは車検も保険もとても安い。クルマは維持費が安い上に減価償却はなだらかで、クルマに形がある限り決してゼロにならない。

 フィリピンにおいてクルマは資産だ。フィリピンではマニラからクルマで30分も行けば、300万円で土地100?の中古住宅が買える。その車庫に300万円の新車が停めてあって、家とクルマのセットで600万円という風景は別に珍しいことではない。

 日本は自動車大国である。消費者が数年でクルマを買い替えてくれなければ自動車大国を維持する事はできない。10年間も同じクルマに乗っている奴は国賊ものだ。家電についてもしかり。消費需要を掘り起こすためにやたらモデルチェンジを繰り返し、全く同じエンジンに別の形のボディをかぶせて、買い替えを煽ることで日本国のメーカーは成り立っている。そのために政府も車検で大きなお金が掛かる仕組みを作った。それに乗っかってホイホ買い替えをしていたらメーカーの肥やしになる。フィリピン人にはクルマの価値が数年でゼロになる日本の状況は異常だ。

 「出羽の神」の国はそういう国なのであり、社会の表層だけを見てその国を断じてはならない。フィリピンの中古車市場の現状は製造業保護やマクロ経済からすると問題はあるかも知れないが消費者優先や環境保護の見地からすれば、社会のあるべき理想の姿といえなくはない。