2001年05月

47 デモクラシーとサンチャゴ上院議員

2001年5月30日(水) [047] デモクラシーとサンチャゴ上院議員

 コメレック(中央選管)は本日、上院議員の一部の当確者について当選発表を行うと述べている。それに対し、早速、サンチャゴ上院議員からは当選発表を見合わせるようにとの異議申立がなされた。インクワイアラーによると彼女の主張は次のようなものである。

「A premature proclamation would be tantamount to collaboration on the part of the Comelec with unconstitutional, immoral, and totally reprehensible electoral fraud, designed to distort the will of the electorate,(インクワイアラー29日付ホームページ記事”partial proclamation tomorrow” 試訳:「時期尚早たる当選発表は、中央選管が、違憲で、不道徳で、全く不届きな選挙不正行為の片棒を担ぐようなもので、有権者の意思をねじ曲げるようなものである」)

 デモクラシーは民主主義などと翻訳されているが、正確には民主主義的政策決定手続過程のことである。デモクラシーは「主義」ではなく「システム」をさす用語であり、ちなみに「民主主義」は「Democratcism」である。普通選挙制度における投票はデモクラシーの主柱となるべき、代表者選出手続過程であり、これを否定しては、デモクラシーは成立しない。サンチャゴ議員は難解でもっともらしい語句を連ねて、本申立を行っているが、要するに、自分の解釈と異なるものは全て邪悪とみなし、一部の不正を持って、全体を不正と断定するものである。弾劾裁判を振り返っても、彼女のこれまでの言動や態度こそ、反民主主義的なものである。

 周知の通り、フィリピンの現状では選挙における不正の完全防止など、不可能である。だからこそ、ナムフレルなる民間集計機関を創設し、少しでも不正を減らそうとしているのはフィリピン人の知恵であると評価できる。この機関はマルコス対アキノの選挙から絶大な効力を発揮している。そのナムフレルと中央選管の開票結果がほぼ同一なのだから、尊重されるべきものである。上院議員という国民の代表者がこれを全面否定しては、良心に従って、集計作業を行った彼ら職員やボランティア、そして教職員が浮かばれまい。サンチャゴ女史の今回の異議申立は、デモクラシーの理想的制度の確立を目指して努力を重ねる人々に対して唾を吐くような行為である。

45 エストラダ裁判、TV生中継の怖さ


 論議になっているのは、来月にもはじまる見込みの元大統領の「略奪罪」の裁判をテレビ生中継をすることの是非である。エストラダ大統領の放逐の発端となったのは昨年末から連日続いた弾劾裁判のテレビ生中継であった。これはテレビ放送始まって以来の高視聴率を記録したとされ、視聴者は茶の間の映像から、大統領は有罪であろうとの心象を強くし、国民あげての「エラップ辞職せよ」大集会に発展した。大統領は、司法制度に則った上院議員から構成される弾劾裁判ではほぼ「無罪」判決を手中にしていたが、司法制度には存在しない「国民陪審制」による「有罪判決」に破れ、最高裁判所がその評決を追認して、職を逸した。エドサに集結した陪審員たちは自ら名乗りを上げた者たちであって、この裁判にはルールは初めから存在せず、その「審判」の法的根拠などどこにもない。

 これから開廷する17件にのぼる放遂大統領の裁判は、テレビ中継されれば、今年最大の長編大河ドラマ(息子ジンゴイも出演)となり、茶の間の「視聴者」ならぬ「陪審員たち」はその経過をつぶさに見守るであろう。そして彼らは面白くないシナリオに陥るやいなや、文字メールで声を掛け合ってエドサの路上に飛び出し、「アロヨ辞任せよ」のシュプレヒコールを上げるに違いない。

 日本ならば裁判のテレビ中継の是非は「国民の知る権利」を巡って単純に議論されるものである。しかし、フィリピンではそうではない。この国の政治形態は「フィリピンスタイルの直接民主主義」、つまり、代議制を無視し、司法制度をないがしろにしてまかり通る民主主義である。自ら審判を下すことに味をしめた民衆を相手に、うかつに元国家元首を肴に裁判など放映して、果たして政権基盤は大丈夫だろうかという極めてホットで異次元の議論になっている。

44 エストラダ元大統領の拘置に豪邸建設?


 今朝の新聞報道によると、アロヨ大統領はエストラダの拘置のために、退役軍人記念病院内に豪邸を建設すると約束したとのこと。愕然とした。建物が豪邸なのかプレハブなのかは問題ではない。国民の金を略奪した「略奪罪」で死刑か無期懲役かと云われている人物のために、国民の税金を使って、いくつ拘置所を建てたら気が済むのだ。

 私はアロヨ政権を支持するものである。だが、この決定は明らかに誤りである。エストラダがラグナの簡易拘置所でうつ病がちになっているから?上等ではないか。反省を促すのが、拘置の目的のひとつなのだから囚人のうつ病は拘置が「効果的」であったことの証拠で、そのように国民に報告すべきことなのである。この件、エストラダにもエストラダ支持者にも媚びる必要はない。市民は法の前に平等でなくてはならない。

 アロヨ大統領が、自分の同情心で、その決定をなしたとしたら、それは権力の乱用である。だいたい何度も拘置所にのこのこ「囚人」を訪ねるのもおかしなこと。必ずやそのことを指摘し、糾弾する者が大勢出てくるであろう。

 あるフィリピンの公務員が云っていた。「自分は許可証発行を巡って現在15件の裁判で訴えられている。自分の上司は自分の5倍の裁判を抱えている。発行すれば訴えられるし、発行しなくてもその反対の立場の人間が訴える。どうせ訴えられるのだから、自分は法の定めに従って業務を行うだけ」、だと。その言葉をそっくりアロヨ大統領に贈りたい。

私が予期した通り、アロヨ大統領はピープルズパワー2主催団体、公務員特別裁判所、左派団体、カトリック教会などから轟々たる非難を受け、24日には既に取り掛かっていたエストラダ用特別拘置施設の基礎工事を中止した。(5月25日書き込み)

46 ガソリンの値上げと特別国会における電力事業改革法案


 5月24日の石油元売各社の石油製品の一斉値上げは、アロヨ政権の先行きに不安を投げかけた。ペトロンによれば、値上げの理由は3、4月のペソ下落と中東原油価格高騰により生じた損失の穴埋めをするためとのことである。この決定に対して、アロヨ政権は、業者に対し、値上げを見送るよう嘆願はしないと、早々と声明を出している。ジプニーなどの運輸組合や左派団体は、そんな大統領に容赦ない非難を浴びせ、石油元売本社前で値上げ抗議集会を行い、ストライキ決行の構えである。もちろん、石油製品の値上げが物価上昇の引き金となるからであるが、怒りの原因は、石油製品が自由価格制であるに対し、運賃は許可制であるために、極貧のドライバーらが値上げの差額を一方的に負担せざるを得ないというその不公平な仕組みにある。

 一方で、アロヨ大統領は、週明けから4日間の日程で、上院と下院に対し、特別国会を召集し、電力事業改革法案を審議することになった。この審議終了予定日が下議員全員と上議員半数の任期満了日という異例の特別国会で、アロヨ政権は法案成立を目指す。電力公社民営化を含む電力事業改革法案はラモス政権から3政権に跨る勘案事項で、アロヨ大統領は自らTVコマーシャルにも出演して、電気料金値下げにつながる同法案成立に国民の理解を求めている。しかし、左派団体は67億ドル(約8040億円)の累積債務を抱える電力公社を資産額45億ドル(約5400億円)で売却した場合、そのツケを国民が負うことになるとして大反対している。法案成立を推進してきた下院議員でさえ、公社の資産内容の調査が十分でなく、次期国会への持ち越しが望ましいと漏らす始末である。確かに毎年320億ペソ(約800億円)の赤字を計上する電力公社を手放すことは財政赤字に苦しむ政府としては当然の措置である。アロヨ大統領の目論みは、現状の賛成議員の数に加えて落選し任期が終了が確定的な議員のとりこみは容易で、4日間の審議日程での法案成立は間違いなしという大きなチャンスであること。ここでアジア開発銀行や世銀が催促する同法案を成立させて、国際評価を引き出し、政権基盤安定への浮力を得たいからである。

 いかにもサラブレッド政治家、経済通のアロヨ大統領らしい発想である。しかし、アロヨ政権は正規の手続きを経て誕生した政権ではないこと。国民世論を味方につけなければ一挙に政情が流動化する脆さを抱えていること。石油製品価格自由化はごらんの通り、価格下落に繋がっていないこと。よって、電力公社民営化による電気代の下落について、国民が深い猜疑心を持っていること。これらの事実をきちんと吟味して臨んでいるだろうか。
 アロヨ大統領は、富裕層に属するエストラダ元大統領の拘置状況に対しては同情するとしながら、貧困層に属するジプニードライバーに対する同情心は一切見せなかった。ディーゼル値上げがもたらすジプニードライバーの生活の困窮に想像が及ばなかった。そこがグロリア:マカパガル:アロヨ大統領の弱点である。大統領更迭をかざして迫る国民とそれを無責任に鼓舞する政治家どもを相手に、週明けから新米女性大統領の攻防が始まる。

同法案は、5月31日の特別国会最終日に時計を止めて保留し、今期最終通常国会の6月1日に下院を、4日に上院を通過し、8日にアロヨ大統領が署名して成立した。

43 開票結果の中間報告


 開票作業がもたついており、政治評論家も選挙の講評ができずにさぞイラついていることだろう。大勢が判明するのに1週間を要するとのことである。
 今回の選挙は、クーデターにより成立したアロヨ政権の信任を問う選挙である。上下両院における与野党の議席獲得率はこれからの政権の運営(=政局の安定)に多大の影響を与えるもので、これは同時に、3年後の大統領選におけるアロヨ大統領の2期目続投の可否を占うことになった。ナムフレル(民間集計機関)の中間発表(5/18/2001 4:10PM現在、開票率43.89%)を聞く限り、この選挙では、与党連合の大勝はないものの、過半数の議席は確保する見通しである。国内外で多くの問題を抱えるアロヨ大統領としては、野党に対する懐柔策は当然であり、自らがクーデターにより成立した政権であることに鑑みると、巻き返しクーデターをはかって未遂に終わった野党議員らを「反乱罪」で起訴することは妥当でない。ここは、彼らに恩赦を与えるべきである。しかしながら拘留中のエストラダ元大統領とその息子ジンゴイの「略奪罪」、上院選で当選の見込みであるエストラダ夫人の「略奪罪」、元大統領府広報担当官ダサー氏とその運転手暗殺にかかるラクソン元国家警察長官の「殺人罪」については追及の手を緩めてはならない。
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