2004年2月27日(金) [98] 

 私にとって2月、特に6年に1度大統領選挙が行われる2月は特別な月です。私が初訪比したのが86年2月。その年が私の大学卒業の年に当たり、政治学を学んでいた私はフェルナンド・マルコス対コラソン・アキノの大統領選挙に遭遇したのです。その選挙取材が縁で私はこの国の大学院の修士課程で学び、定住するようになりました。その間に、92年(ラモス政権樹立)、98年(エストラダ政権樹立)と大統領選挙を「観戦」してきまして、今度が4度目の選挙と相成りました。

 フィリピンの統一選挙では映画さながらに、そして、五月雨式に様々な事件が勃発し、一体、次は何が起こるか誰も予測が出来ません。今回も選挙を前に昨年、久方ぶりのクーデター未遂事件が勃発しましたが、年明けから1ヶ月の間に既に数件の問題が起きています。まずはフェルナンド・ポー・ジュニア大統領有力候補の国籍問題です。公文書管理局のマナパト局長がポー候補は米国籍にて大統領候補資格はないとして、同氏の出生証明書を証拠として提出したことから巷では大騒ぎ。ポー候補は自分はフィリピン人であると主張したが証拠を出すことができず、旗色が極めて悪いかに見えた。ところが、数日後、同局長の命令で出生証明書の捏造を行ったと公文書管理局職員3人が名乗り出た。ここで公文書管理のトップによる公文書捏造疑惑という、まさにあってはならない事態に発展したのである。

 これには選挙ウォッチャーの私も驚いたが、さらに数日後には私の度肝を抜くニュースが飛び込んできた。それは「2004年度予算案廃案!03年度予算を踏襲!」。要するに本年度予算の成立が会期内に間に合わず、今年は前年度予算を通年で準用するというものである。よくあるのは国会会期切れに予算案が通過せず、特別国会が開かれるまで、数ヶ月間のみ前年度予算を準用することは他国でもあったかも知れない。しかし、今回は本年度予算案を完全に廃案にし、昨年度予算をそのままリサイクル使用することに決定したという前代未聞の事態である。一体、現代世界史のなかでこのようなことがあったであろうか。まさに何でもありのフィリピンの面目躍如か、と揶揄(やゆ)したくなる呆れた事態である。

 日本では衆議院における最も重要な責務は予算審議であると学校では教わった。国家予算の振り分けの仕方によって国家の動向が決まるわけであるから、毎年の世界情勢の変化に合わせて予算を組替えるべきは当然である。ましてやフィリピンペソは昨年一年間で円に対して20%以上、ドルは1月26日の為替市場で$1=P55.85という市場最安値をつけた直後のお話である。ペソ下落だけを勘案してみても昨年度予算と同じでは立ち行かないことくらい子供でも分かる。それを何の修正も行わず、補正予算の使い道だけで対応しようというのだから唖然とする。

 野党は、アロヨ大統領が大統領選を前に国家予算を恣意的に使わんがためだと非難するが、それよりもリサイクル予算でもって国家国民の未来を人質に選挙を実施することが問題であろう。一体、両議会議員275名は一年間何をしてきたのであろう。彼らの最重要の責務と権利が蹂躪されてなぜ黙っているのだろうか。<BR>ここはやはり木村氏が述べる通り「公私」ではなく、「私公」の順の国民性なのであろう。自分あっての他人、自分あっての国家というわけである。当然、政治家も然り、ということで、そのことを非難しようものなら「あなた何を言っているの。私が落選したらあなたに責任が取れて?」という怒号が聞こえてきそうである。国士のいないフィリピンで、フィリピンを救うのは自制心のある方が大統領になるしかないようである。今年はそんな候補がいるだろうか。選挙権をもたない我々でも心配になってくるのである。