私たちがいつも利用するマニラ国際空港は、その地で暗殺された故ベニグノ・アキノ(BENIGUNO AQUINO)上院議員の愛称ニノイ(NINOY)にちなんで「ニノイ・アキノ国際空港」と名づけられている。

暗殺から数年後、その妻の故コラソン・アキノ(CORAZON AQUINO)女史はマルコス大統領を追放(実際は米軍による実質的誘拐)して、大統領に就任した。さらに現在の大統領ベニグノ(ノイノイ)・アキノ3世(BENIGNO AQUINO III)はその二人の息子にあたる。

ちなみに「アキノ(AQUINO)」という名であるが、私たちは類似の日本人姓「秋野」からといいたいところだが、故西本至神父によるとアキノはカトリック・ドミニコ会のスコラ哲学の代表格たるトマス・アクイナス(Tomas=Aquinas)の姓に由来するとのこと。 

さて、庶民から絶大なる人気を誇ったコラソン・アキノ元大統領ではあるが、一方ではフィリピン全土の大地主から「厚顔無恥の人物」として嫌われている。

というのも、彼女は大統領就任後、直ちに「農地改革法」を立法化し、大地主に対し、所有する農地を小作人に公平分配せよと迫り、個人は4ヘクタールまでしか農地所有できないこの法律により、多くの大地主に農地を失なわせた。(私の友人も田畑を分配させられアキノを「タワケ者!」と吐き捨てる。)

にも拘わらず、アキノ女史の実家であるコファンコ家は、タルラック州にルイシタ荘園と呼ばれる巨大農園を所有し続けている。「農園の株式化」という法の抜け道を利用し、小作人には農地の代わりに証券を与え、一族はその全株式の70%を所有するという方式により、荘園支配を継続しているのだ。

それに抗議する小作人組合のデモ行為に対し、政府の犬である警官隊をもって迎えうち、組合側に7名もの犠牲者を出してきたという経緯もあり、これが「厚顔無恥」と非難されるゆえんである。

実は、昨日、最高裁大法廷は、ルイシタ荘園の農地を小作人に分配せよという命令を出した。アキノ政権下でコファンコ家有利の判決が出なかったことに一定の評価もある。(*1)

しかし、最高裁判所判事は15人中、長官を含む12名までがアロヨ政権下で任命された反アキノ陣であり、コファンコ家に有利な判決が出ようはずがない。

しかし、少なくともこの判決なものであり、母の七光りで大統領に就いたアキノ大統領には、母の尻拭いをしてもらいたい。

つまり、アキノ大統領にはこの最高裁判決に対し、異議申立などせず(*2)唯一最悪の汚点であるコファンコ家の「農地改革破り」に終止符を打ち、速やかに小作人に農地を分配していただきたい。


*1 最高裁判所判事は15名。そのうち長官を含む12名はアロヨ前大統領に任命された判事。
*2 フィリピンでは、最高裁判決に対し日本と同じ「異議申立」以外に「再考願い(Motion for Reconsideration」もありだ。
   司法の名目は日本と同じ三審制なのだが、日本と違い、三振してもアウトになるとは限らない。