抗議集会に集まった民衆の目指すところは、マラカニヤン宮殿からアロヨ大統領を追い落とし、奪取したエストラダを大統領に据えることである。一方、サンチャゴ上院議員を旗頭にする野党勢力の目指すところはこの民衆の政権への怒りを利用して、来る5月14日の選挙に大勝することである。野党にとっては、扇動家に踊らされた群集が、暴徒と化し、死傷者が出ると、さらに好都合だろう。民衆の政権抗議集会に自発的に参加してくれると選挙資金の節約にもなる。
貧困層は彼らに利用されているだけということに気づいていない。ラモス大統領になって、大躍進したフィリピン経済はエストラダ大統領になって、急激に冷え込んでいった。ラモスがまだ大統領であったなら、あるいはエストラダがラモス路線を継続していれば、アジア通貨危機も克服して、安定成長に導いていただろうことは想像に難くない。アロヨ副大統領はラモス路線の継承を約して、大統領に担ぎ出された。エストラダ大統領は何一つ国民のための施策を行わなかったのに正義の味方という映画のイメージに踊らされている民衆。それを利用しているのが、彼らの忌み嫌うエンリレ、サンチャゴという富裕層に属する伝統的政治家たちなのである。
発展途上国の国民が経済的に豊かになるためには政情の安定、通貨の安定、雇用の促進に尽きる。フィリピンの教育現場で子供に最低それだけのことを教えておけば彼らは大人になって悪徳政治家の言葉には惑わされないはずである。