2003年4月5日(土)
 
【引越した理由】
 久々に自宅を引越しをした。2年半ぶりの快挙?である。我が生業ではさほど儲からないので、借家暮らしが続いているが、借家人のひがみだが、最大のメリットは何といっても、引越しができることである。それを生かさぬ手はないが、何せ、引越しには大変なエネルギーがいる。そのため、私は、できれば、そう何度も家はかわりたくないと思っていた。
 が、今回、その重い腰をあげたのにはそれなりの訳がある。引越し先は前より少しだけ家賃は高いが、縦10mと小さいながらプールがついている。また、幹線道路から離れていて、騒音も排気ガスもまったくない。そして、前はいわゆるDUPLEXと呼ばれる一軒家を二つに仕切ったアパートメントタイプのものだったが、今度のは正真正銘の一戸建てであること。よって、前より広くて随分風通しもよい。これだけの条件が揃えば、引っ越さない奴はいないだろう。

【引越しの日々】 
 そんな訳で、怖れていた引越しの日がやってきた。いや、始まったといってよい。
 まず、日曜日の朝7時半に、けたたましい呼鈴で叩き起こされ、枕から(布団からではない―ここはマニラゆえ)引き剥がされる。起きたばかりで平衡感覚も定まらぬ前に、野郎どもがトラックに家財道具を載せられるよう、ふらふらと、でもせっせと梱包作業をする。なぜ引越し日になっても、梱包が済んでいないか。聞くまでもなく、準備が嫌いな性分なのだ。
 さて、載せども載せども、たくさんの荷物が残っている。担ぎ屋連中は大家族だろうと思っているに違いないが、実は妻と2人だけなのに、荷が多すぎるのだ。何トン車かわからぬが、4往復もしただろうか。とうとう、トラックは積み残しのまま、次の予約先へと走り去っていった。引越屋を非難するわけにはいかない。誰が見積もったか、最初は一回で運べるはずだったのだから。それからがたいへんだった。毎晩のように旧宅に通い、ほこりまみれのガラクタをまたひたすらバンに載せて、アクセルを踏んだ。両家が近いのが幸運か、はたまたアダか。そんな日々を10日も続けて、ようやく家財道具やガラクタどもは全て、新居に収まった。いや、車庫に溢れていた。

【引越しの犠牲】
 引越しで、水槽の海水魚は全滅。家具の一部はキズだらけ。忠犬ラブラドールも散歩に連れ出さないものだから、無駄吠えを覚え、駄犬になった。でも、犠牲は最小限、まだ取り返しのつくことである。

【新居の夜明け】
 新居の朝は、プールの周りのココナッツやマンゴーの小鳥のさえずりで始まる。プールサイドでロッキングチェアを揺らしながら、白々と明けてゆく空を眺める。電車の汽笛とトラックのエンジンの爆音、そして、隣のアルゼンチ―ナのラジオの音で始まる旧居とは隔世の感がある。さらに、朝ドラをみている寝ぼけ顔を、冷たい朝風がそっーと撫でてゆく。
 夜は夜でプールサイドで呑むサンミゲルビールは格別である!
 ああ、これぞ人生。フィリピンくんだりまで脱出してきた甲斐があった。
 プールは子供にはちょうどいいサイズ。週末には泳ぎに来た妹夫婦の子供連中の歓声が響き渡る。子供のいない妻にはこれがこたえられないようだ。夫婦円満に「家」が一役を買う。
 
 諸兄殿!時には思い切って引越しをしてみよう。